光感受性発作とポケモンショック、アクセシビリティの話
アクセシビリティ Advent Calendar 2019 - Adventar 17日のエントリーです。
ウェブアクセシビリティ(JIS X 8341-3, WCAG2.0)には、「発作の防止」という項目があります。
2.3.1 3回の閃光、又は閾値以下: ウェブページには、どの1秒間においても3回を超える閃光を放つものがない、又は閃光が一般閃光閾値及び赤色閃光閾値を下回っている。 (レベル A)
閃光による発作について広く知られるようになった「ポケモンショック」から10年以上が経過し、知らない人や忘れてる人も増えてきたので、ここらでまとめておきたいと思います。
ポケモンショックの発生
1997年12月16日、テレビアニメ「ポケットモンスター」を見ていた子供たちがてんかんのような発作を起こし、救急搬送されるという事故が発生しました。救急車で運ばれた児童の数は全国で約700人。この数には、家族が自家用車で病院に運んだ数は含まれていません。
この事故の原因となったのが、「パカパカ」と呼ばれる演出。
これはほぼ全画面で赤、青、白を1フレーム毎に入れ替えるもの。ピカチュウの10万ボルトの攻撃を演出する際にほんの数秒間、使われました。
これが光感受性発作を引き起こし、のちに「ポケモンショック」と呼ばれるようになります。
以降、テレビ番組ではアニメ番組の冒頭では「部屋を明るくして、はなれて見てね」との注意喚起がなされるようになり、報道番組では、記者会見の映像でフラッシュに対する注意喚起がテロップで流れたり、コントラストを極端に下げるなどの措置が取られるようになりました。
さて、「光感受性発作」について、以前は「光過敏性てんかん」と呼ばれていたという記憶があります。実際にはてんかんを持っていない人でも発作が起きる、というより発作を起こした人の大半はてんかんじゃない人であることが明らかになっているため、現在は「光感受性発作」あるいは「光過敏性発作」と書かれることがほとんどです。
光感受性発作を引き起こす条件
閃光の周波数が数Hzくらいからリスクが増大し、9~50Hzくらいまでリスクの高い状態が続きます。人の視覚のフレームレートは60Hz前後なので、人の視覚でとらえられる範囲の閃光は大体危ないと言ってよいでしょう。
ポケモンショックの研究によって、特に危険なのが赤色の閃光であることが明らかになりました。アクセシビリティのガイドラインに「赤色閃光」の文字があるのは、このためだと思われます。
閃光の刺激に対して、光感受性発作を起こすかどうかは、てんかんの有無というよりも、その人の体質による面が大きいようです。乗り物酔いのようなメカニズムがあるのではないかとの推測もなされているようです。
模様に対するリスク
閃光に対して特に敏感な人たちの中には、縞模様や同心円等の「模様」に対しても同じような発作が発生することが知られています。
模様については、視野角 1°に対し1回~4回の繰り返しに対してリスクがあるとのこと。
なお、片手を伸ばして親指を立てた時の親指の幅が大体2°になります。
ピクセル数で言ったらどれだけなんだろうと思った人もいると思いますが(私だ)、ディスプレイの解像度、サイズ、距離によって大きく変わるので、大概の縞模様が条件によっては「危なくなる」。
何とも厄介な話ですが、デザインをする上では、画面の広い範囲を縞模様などで埋めるのは避けるとよいのかなと。あと縞のコントラストをぐっと低くするとリスクが低下します。
ちなみに、模様に対するリスクについては、JIS X 8341-3:2004には記載があるのですが、現在は記載がありません。
ガイドラインとして記載しにくいことは理解できますが、せめて「基準は定められないけど気を付けてね」くらいのことは残してくれてもよかったのではないかと思います。
うっかり加害者にならないために
ウェブアクセシビリティの項目の中でも、光感受性発作の項目は、不特定多数の人を害する可能性があるため、特別な重要性を持つと思います。
テレビの現場ではポケモンショックの教訓は受け継がれていますが、ウェブやゲームなどの制作現場では、あまり認識されていないように思えます。
明文化されているのは「閃光」ですが、明度差のあるシーンの切り替えにも同じリスクがあるので注意が必要です。
一般の人でもYoutubeやTikTokなど動画を気楽に投稿できるようになった今、「チカチカするのはやべぇぞ」という話は広めていかければならないと思っています。
参考資料
1)https://www.tv-tokyo.co.jp/kouhou/kouza.htm
2)http://www.visionsociety.jp/vision/koumokuPDF/06kaisetu/E2005.17.01.05.pdf